聴衆の関心を得るために、時には賛否両論の問をすることも有効な手段である。
1例をあげておく。
これは2011年、北欧の国ノルウェーで実際に起きた話だ。
当時32才だった男は、たった1人でサマーキャンプに参加していた若者らに、2時間も銃を乱射し続け、77人の命を奪った。
男の名はブレイビク。犯行の動機は、イスラム系移民から西欧を守るためだと言う。
ここで皆さんに質問がある。
あなたがノルウェーの裁判官だとしたら、世界最大の大量殺人を行った彼にどのような刑罰を与えるだろうか、その理由とともに考えてみてほしい。
死刑、無期懲役、 それとも他の刑罰?
日本でこの質問をすれば、死刑という答えが返ってきそうだが、ノルウェーという国が出した答えは禁錮21年である。
死刑と答えた人にとって、ノルウェーの出した判決は、意外かもしれないが、世界では死刑制度が無い国のほうが多く、 死刑制度がある国はEU(欧州連合) に加盟することはできない。人は変わりうるという寛容の精神に基づき、死刑制度を廃止しているのだ。
話をノルウェーから日本に戻そう。
相模原の障がい者施設で起きた痛ましい事件は記憶に新しいだろう。
逃げることもできない19人の障がいを持った方たちを殺したその動機は、意思疎通のできない人間は安楽死させるべき、という恐ろしいものだ。
この被告をどうすべきか。
死をもって償え、という意見は、被告が主張する不幸を作ることしかできないものは死んでしまえ、という意見とどこか重なる部分はないだろうか。
死刑にすることは、彼の行為そのものを肯定することにならないだろうか。
この話の本質は、一国の制度や法の話にとどまらず 「生きるに値しない命はあるのか」といった人間の尊厳に関わる深い問いである。
今日はこの間を、皆さんと一緒に考えたい。
人の命といった非常に重いテーマであり、一歩話し方を間違えれば、ネガティブにとらえられてしまうが、印象の面では、大きなインパクトを残すだろう。
この話をした後に学生にとっては若干難しい世界人権宣言の説明にはいり、最後は学生でもできる支援の訴求、という流れを組んだ。 講座の冒頭で、世界人権宣言の話をいきなり披露するより、胸を突くような問で関心を引き出してから本題に入るという手法を取り入れてみたのだ。その結果、学生にとってインパクトが深かったようで、その後の話も最後まで聞いてくれた。また、講座終了後のアンケートにおいて、非常に満足度の高い評価を得ることができた。